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【歌舞伎】 玉&海老の『義経千本桜』 2  〜歌舞伎のタイトルに、ときめく方法。

2008.07.24 Thursday

前回に引き続き、っていうか、前回(こちら)は「歌舞伎というものが、どれだけモノリス(『2001:A Space Odyssey』参照)で非リアルなアナザーカントリーじゃなかった、アナザーワールドなのか」ということについて語るだけで終わってしまったのですが、今度こそ、『義経千本桜』について。


私事で恐縮ですが、実は私、この『義経千本桜』という出しものが、あまり好きじゃなかったんです。コドモの頃に子ども用の『平家物語』『義経記』を読み、さらに中村吉衛門が弁慶を演じたNHKドラマ『武蔵坊弁慶』を見て、熱烈な「義経ファン」だったワタシ(註:歴史好きじゃない方もいるかと思いますので書いておきますが。源義経とは、鎌倉幕府をひらいた源頼朝の弟。源平の戦いのときに活躍しましたが、兄に疎まれて殺されたため、「悲劇の武将」キャラとして日本人に親しまれてきました)。大学生のとき、初めて歌舞伎の『義経千本桜』を見たのですが、そのときの感想は、「タイトルに“義経”ってあるくせに、セサミストリートのビッグバードみたいな変なキツネばっかり出てきて、義経なんか単なるチョイ役じゃん! 何なのこれ!」でした……。なんて愚かだったんでしょう。歌舞伎の何たるかを、全然、わかっていませんでした。

歌舞伎は、かなりの割合で、「看板に偽りアリ」です。タイトルに求められるのは、客を呼べる力があるかどうか、ということに尽きました。だから客を呼べる魅力さえあれば、タイトルとコンテンツがちょっと食い違ってたってOK。『義経千本桜』だって、義経なんてほんのチョイ役みたいな感じだし、千本桜とは桜の名所で有名な吉野山(奈良県)のことで、義経と恋人・静御前の別れの場でも有名ですが、舞台設定となってはいるものの、それがコンテンツのメインか? と問われれば、違います、としか言いようがない。つまり、このタイトルは、「あの有名な“義経の世界”を舞台設定としたお芝居ですよ」ということを指し示しているけれど、コンテンツの主題やストーリーを示すものではないのです。だけど、義経も桜も、当時の日本人にとっては親しみ深いモノで、かつ絶対的な価値があったモノ。そんな親しみがあって価値あるモノ(義経と桜)を並べて、「ほらほら見てよ、面白そうでしょ?」と誘う、そんなタイトルが『義経千本桜』なんだと思います。

そんなことから気付かされるのは、タイトルはコンテンツのメインテーマをほのめかすものである、というふうに何となく思ってしまっている現代の私たちの感覚、です。そういう感覚は現代において不思議でも何でもないけれど、それは決して「絶対的な感覚」「絶対的な価値」ではない。歌舞伎のタイトルは実はそんなことも教えてくれます。ということは。さらに言えばそれは、今後未来の感覚だってどう変わるかわからない、決して今の価値が絶対ではない、ということも教えてくれるわけで。過去について知るということが、意外と大切だというのは、こういうことなのではないかな、と思ったりします。過去のことなんか今の時代には関係ないからどーでもいい、っていう風潮があるかもしれませんが、それは単なるお勉強とか単なる雑学薀蓄として、過去の出来事に接するから、そういうことになるんだと私は思うのですが。何かを知るということは、現在と未来を読み解くためにあるはず、ですよね。


で、さらに言えば、歌舞伎のタイトルからは、タイトルをそのまま真に受けることのつまらなさ、逆に言えば「真に受けない」ことの面白さを、教えてもらった気もするんです。もっと正確に言えば、「はぐらかされる」ことの面白さや楽しさ、スリルやドキドキ。だって、『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』なんていう、すっごいロマンチックなタイトルの歌舞伎舞踊があるんですけど。最初このタイトルを見たとき、一体どんな美男美女が出てきて「わちきはモウおまへさんの顔を見ないうちはどうも苦労で悲しくッてなりましなんだヨ」「つまらねえ事を言う」「わちきはもう死んでもよいヨ」「コレサ、泣きなさんなヨ」みたいな人情本的ラブラブワールドが繰り広げられるのかと思ったら。幕が開くと、なんかもういかにもアヤシいムード満載の花魁が出てきて、実は父(平将門)の怨念を背負った滝夜叉姫でしたー! ってことになって髪とかバッサバサになっちゃって、巨大なガマ(別名、カエル。目が赤く光る!)をしたがえた妖女と化し、「やっちまいな!」とばかりに武士とガシガシ戦う! これのどこが『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』なのか? っていう素晴らしい「看板に偽りアリ」っぷり、歌舞伎では、意外とフツーです(笑)。

でも、「こう来るかと思ったけど、やっぱ予想通りだった」っていうよりも、「こう来るかと思ったら、うわーこう来たか! やられた!」っていう体験のほうが、断然、楽しいしワクワクするもの。恋愛だってそうですよね? ほら、アレです。男子も女子も「ギャップのある人が好き」って、よく言うじゃないですか(笑)。モデル並みにスタイルもよく美人でまさに「高嶺の花」という看板を背負ったような女性が、階段ですっ転んで「えへへ」とテレ笑い、しかもストッキングが伝線しちゃってるのに気付かずそのまま会議室に駆け込む……なんていうの、男性のみなさん、ドキドキしませんか? それです。表面と内容のズレって、何が出てくるかわからなくって、思わず惹かれてしまいますよね。

そんな恋のトキメキみたいなものを、歌舞伎のタイトルからさえも引き出せるようになったら、こっちのもの! なんて言うと、歌舞伎のタイトルでトキメキを味わえるなんてずいぶんと安上がりだねー、つーかほかに楽しいことはないのか? なんて笑われちゃうかもしれませんけど、「人生、どんなつまんない細部にもトキメいちゃったもの勝ち」ですよ。ええ、私はいろんなところでトキメキを味わっております〜。恋愛でしかトキメキを味わえないなんてこと、ないです。っていうか、ソレがないぶん、歌舞伎のタイトルからも貪欲に……ってことかもしれませんけどもー(卵が先か鶏が先か私は知りません笑)。



なんて書いたくせに!! 今回、『義経千本桜』を見ているあいだ、私は「恋する乙女」と化しておりました。まったくもって、恋してました。だって……、海老蔵がステキすぎたんですものー! というわけで、またもや引き伸ばしにかかるつもりはまったくなかったのですが、、タイトルについて書いただけで時間がなくなってしまいました……ので、『義経千本桜』の海老について、今度こそ次回に続きます(笑)!




◆文化デジタルライブラリー『義経千本桜
 あらすじや見どころなど、ビジュアル資料満載のサイト。便利です!


◆ねんのためリンク。
玉&海老の『義経千本桜』 1  〜日本最大の非リアルワールド、歌舞伎
玉&海老の『義経千本桜』 3  〜海老蔵に見る、男の「可愛さ」について


◆同じく、玉&海老の公演について書いた過去記事。
玉三郎×泉鏡花まつり! 『海神別荘』の巻


 

【歌舞伎】 玉&海老の『義経千本桜』 1  〜日本最大の非リアルワールド、歌舞伎

2008.07.23 Wednesday

先日、知り合った男性が男同士3人で一軒家に住んでいるっていうので、「男子が集まってどんな会話してるの?」と興味津々で聞いたところ、「テレビに出てくる芸能人を見ながら、この女だったらヤれるかとかこの女はちょっととか、そんな話ばっかりしてる」とか言っていまして。「男子同士で恋愛相談とか、何とかちゃんとうまくいかないんだ……みたいな話しないの?」って聞いたら、「まず、しない」と言っていて、改めて面白いなぁと思いました。

女子が集まるとどうしても「カレがどうした」とか「何とか君がどーした」とか「何とかちゃんがあーした」とか、現実的な話になりがちじゃないですか? 現実的っていうのは、地に足がついていて生きていく上ではベンリだとは思いますけど、その一方で、地に縛りつけられているような重苦しさを感じることもありますよね。人間、何をどうしたってリアルワールドに生きていかなきゃいけないんだから、せめて会話するときくらいはアナザーワールドに飛んでいきたい……そう思うこともある。だから私は、昔から、男子同士のくだらない会話(って勝手にキメツケてますけど笑)に入れてもらいたいな〜〜みたいな、ヘンな憧れをもっていたりします(笑)。

女子同士でアナザーワールドの話ができるかどうか、っていうのは、本当に、その女子との感性の相性が大切で。アナザーワールドなんてどーでもいい、って人もたくさんいるでしょうし、こっちのアナザーワールドは興味あるけどそっちのアナザーワールドには興味ないから話す気にならない、って人もいるでしょうし。そもそも、女性は、「現実以外のモノゴトについて語るという前提を共有できるかどうか」というところの個人差が、ものすごく大きい。

でも、よく考えてみたら、女性だって少女時代はみんな、アナザーワールドに生きてたはずなんですよね。どんな女性だってコドモの頃の頭のなかは、お姫さまと、お城と、白鳥と、リボンと、クリームケーキと、バレエシューズでいっぱいだったはず。……って書いていて気づきました。確かに、大人になっても頭の中がコレらのブツでいっぱいだったら、女としての魅力を磨いて、コレだっていう男つかまえて、結婚して、出産して、料理して、掃除して、ママ業こなして、かつ仕事もして……みたいな現実世界に対応できなくなる可能性大(笑)。つまり女性は大人になるにつれて、現実以外のモノゴトに興味をなくすというよりも、現実世界で自分の身を適宜変化させ、守っていかねばならないため、現実以外のモノゴトについて考え続けるヒマがなくなる、ということかもしれません。もちろん、そうじゃない人もたくさんいますけど、少数派なのでは。人間って放っておくと省エネを目指しますから、てんてこ舞いな現実に役に立たないことは、考えなくなる傾向があると思うんですよね。

だけどそんな女性たちも、ひと段落ついて、やっともう一度アナザーワールドを……と夢見みたとき。その夢を求めてさまよわせた視線のその先にあるのが、あの世界、なのかもしれません。そう、アレ、です。……ジャニーズ、韓流、宝塚、歌舞伎、その他もろもろ。


ってわけで、歌舞伎、見てきました!(やっと歌舞伎の話題に入ったよ!) まぁ私個人としては、「女性の現実」との格闘を可能な限り避け続けてきてしまったせいで、別にこの年齢になったからとかじゃなくて、それこそずっと万年「アナザーワールドを夢見る少女」ではあるのですが……(はい、もちろん心だけです。ツッコミ入る前に言っておく)。

歌舞伎座には毎月通っている私ですが、本当に行くたびに、「この現代日本において、ここまでリアルから遠ざかってしまっている世界はあるのだろうか?」と思ってしまうのです。確かに、ジャニーズも、韓流も、宝塚も、ありえない世界だと思いますけど、非リアルの度合いでいったら、歌舞伎には到底適わないのではないでしょうか?(って、誰もそんなことで競ってないでしょうけど笑)

だけど江戸時代の人々にとって、歌舞伎は、かなりリアルなものでした(ある意味でファンタジックな要素もありますが)。歌舞伎のお芝居には「時代劇」と「現代劇」がありまして、現代劇はまさに江戸庶民のドラマを描いたもので、時代劇は江戸時代以前(平安時代とか室町時代とか)のドラマを描いたもの。で、ある意味でファンタジー的要素をもっていたと言える時代劇でさえ、なぜか衣装とか職業とかが江戸時代のものだったりする。たとえば、源平合戦の時代に、べらんめぇ口調の寿司屋の息子が登場したり(笑)。蘇我入鹿の時代に、高島田結って黒襟かけた娘が現れたり(笑)。それはつまり、それだけ歌舞伎は、江戸時代の人々にとってのリアルを反映しているお芝居だった、ということでしょう。

でも、現代においては、歌舞伎は、非リアル以外の何ものでもありません。そして、現代に歌舞伎が存在する意味があるとしたら、そこだと思うんです。「ものすごい非リアルさ」。そこにこそ、歌舞伎の現代的な意味があるんだと思うんです。しかも、ここがかなり重要だと思うのですが、その「ものすごい非リアルさ」は、単なる荒唐無稽なファンタジーや架空の作り事ではなく、「一昔前にはすごくリアル」であったがゆえの「ものすごい非リアルさ」なんですよ。かつてリアルだったという過去をもつ、非リアル。過去のリアルが時空を超えて現代に現れてしまった、モノリス(『2001年宇宙の旅』参照)のような、非リアル。そんなものが堂々と存在して生きて動いて熱を発しているなんて。ほぼ奇跡のようなものだな、とさえ思います。

そんな奇跡レベルの非リアルワールド、歌舞伎。私は今回、一番前の席(!)で堪能してきてしまったのでした。めくるめく色彩をともなって展開する、華やかなアナザーワールド。確かに、実体を伴って目の前に存在していた、もう一つの世界。ああ。しばらくリアルな会話なんかしたくない。掃除もゴミ捨ても皿洗いもしたくない(料理はもともとしないからいいとして)。郵便物なんか知らない。アマゾンで注文した本もまだ届かなくたっていい。日焼け止めを塗るのさえいや。だから外にも出ない(オリジンにお弁当買いにいくのは別として)。だいたいリアルなんか何よ。リアルワールドなんか熨斗つけてくれてやるー!!!(誰に?) と、そんなメチャクチャを言いたくなるほどの強烈なアナザーワールドを体験したければ、歌舞伎座の昼の部へ。出しものは、『義経千本桜』。しかも、玉&海老、当代随一の美男美女コンビの公演です! 


……というわけで、いよいよ本題(まだ本題じゃなかったらしい)、玉&海老の『義経千本桜』がどんな感じで非リアルなアナザーカントリーだったのか?(あ、アナザーワールドだった。ま、いいや笑) これについて次回に書きたいと思います。続く♪





◆念のため、公演情報
 「歌舞伎座 7月公演」 7/7(月)〜7/31(木)
 昼の部 『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』

・鳥居前
  11:30-12:16
  (一幕見席 10:50より幕見席チケット発売開始 600円)

・吉野山
  12:51-1:29
  (一幕見席 12:25より幕見席チケット発売開始 800円)

・川連法眼館(かわつらほうげんのやかた)
  2:04-3:15
  (一幕見席 1:40より幕見席チケット発売開始 1,100円 )
 市川海老蔵宙乗り狐六法相勤め申し候

特に、「吉野山」の竹本連中を従えての玉&海老の舞踊と、「川連法眼館」での海老のキツネぶりや宙乗りが素晴らしいです。

ちなみに、「一幕見席」もあるので、チケットを買っていない方でも大丈夫! 一幕見席は、幕見席チケット発売開始時間より1時間ほど早く行って並ぶと、良い席に座れます。でも、天井に近い席なので、オペラグラスは必須(会場でも売ってます。確か500円くらい)。


◆ねんのためリンク。
玉&海老の『義経千本桜』 2  〜歌舞伎のタイトルに、ときめく方法
玉&海老の『義経千本桜』 3  〜海老蔵に見る、男の「可愛さ」について


◆同じく、玉&海老の公演について書いた過去記事。
玉三郎×泉鏡花まつり! 『海神別荘』の巻





 
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