<< 【映画】 仲代達矢版『四谷怪談』 〜私は男性の何にセクシーを感じるのか?という問題について | main | 【本】 『人を10分ひきつける話す力』斉藤孝 〜人は「意味」を求める生き物である >>
【本】 『奇想の江戸挿絵』辻惟雄 〜「エッジがきいている」とはこういう事
2008.06.10 Tuesday
やっぱり、日本とか和とかって、まだまだダサくてヤボったくてイナカくさくてユルいものだと、日本人に思われているんだなぁ……と、思うことがよーくあります。だって、何でもいいんですけど、例えば、年賀状用デザインテンプレートを見ても、暑中見舞い向けの便箋封筒セットを見ても、夏に出まわる扇子や団扇を見ても、はたまたデパートやみやげもの屋の和雑貨を見ても、「これって、確実にダサいですよね?」っていうものでほぼ埋め尽くされているんですもの……。なんて言うと、「アンタ何様よエラソーに」って言われるかもしれませんけど、別に言われてもいーや、だってそう思ってる人たくさんいるはずだもん、って思うので言っちゃいますけど。そんな店先で外国人がみやげ物を物色しているのを見ると、「違うのよーもっとカッコイイ日本ってたくさんあるのよー! そんなぼんやりしたピントはずれのファンシーな小花柄の扇子買うなら、浅草の仲見世で何故か舞妓さんと富士山が刺繍されたキモノ風シルクガウンを買うほうがマシだよー!!」と、ヤリ手ババァよろしく手を引いて連れてっちゃいたくなります。ホント、日本国内には、日本のもの和のものを「ああいうテイスト(例:ファンシーな小花柄)」にしようしようしようしよう……とする、もの凄く強力な力が働いているような気がしますね。って私は別に陰謀史観の持ち主ではありませんが(笑)。
でも、どうしてなんでしょうね? 昔の日本には、もの凄くカッコイイものもたくさんあったはずなのに。明治時代になって海外の文化が入ってきて、さらに戦後にすべてが近代化されて、日本の文化はいったん納屋か蔵に押し込まれることになった。それで、久しぶりに戸を開けてみたら、「結構カッコイイもんも混じってたぞ!」っていう展開になるならわかるんですけど、なんかそうじゃなかったみたい。カッコイイかカッコよくないかは問わず、「日本の昔の文化はこんな感じじゃった、おお、そうじゃそうじゃ!」みたいな(誰だよ笑)。その納屋や蔵にしまってあったものには、カッコイイものとカッコよくないものと両方混じっていただろうと思うのですが、結局はやっぱり、それがカッコイイかどうか、価値判断を下す人間がいなくちゃダメなんだろうな、と思うのです。で、さらに言えば、それがカッコイイかどうか、っていう価値判断を一度下せばもうOKなのではなくて、何度でも、常に価値判断を下し続けていかなければならないんだろうな、と思うのです。
そういう人間の厳しい目によるチェックを受け続けていないと、すぐに「日本文化ってこういう感じ」「和文化ってこういうの」っていう公式というか定型というかパターンが出来上がる。で、誰も何も言わないものだから、そのまま何10年も同じ公式「日本文化ってこういう感じ」「和文化ってこういうの」が引き継がれ、ファンシーな小花柄の和雑貨が大量生産される。で、受け手側も、そのまま何10年も同じ公式「日本文化ってこういう感じ」「和文化ってこういうの」と信じて疑わず、ファンシーな小花柄の和雑貨を平気で購入する。変わらないのが良いこと、そのまま変えずに引き継ぐのが良いこと、っていうのが日本人の考えのなかにあるのだろうか? って、アリアリですよね、確実に。でも、それって、もうある意味で終わってしまった文化に対する姿勢だと思うのですが。って、あっ、そうか! そういう意味では、日本文化は既に終わってしまっていたんだった……(今頃気がつくバカ)。
なんて書きましたけど、そうは言っても、最近は日本文化ブームや着物ブームもあって、センスのよい日本文化をセレクトしたりクリエイトしたりという方々が増えてきて、本当にこれからが楽しみなのです。そういう意味では、日本において日本文化は再び始まった! と言えるのではないでしょうか。日本文化ルネッサンス? 文化って、一度終わったって、また始まることもある。何度でも息を吹き返す。それを「やろう!」と思う人間さえいれば。
じゃあ、そんなふうにエラソーに言うアナタは、どんな日本文化がカッコイイと言うのか? っていう問いもあるでしょう。以前にもこのブログで、それに関連した記事(→「雑誌『助六』、優作キモノ考、和もの考」)を書いたので、以下にコピペします。
いわゆる「和もの」というくくりには、「ん〜ちょっと違うんだけども……」と思ってしまうことが多々ある私です。
いわゆる「和もの」という響きには、トンがったスタイリッシュさや、エッジのきいたシャープさ、そして一筋縄ではいかないヒネリが感じられないような気がします。
日本文化だって海外文化と同じで、ユルいものだけではなく、ヤバイものまでいろいろあるはずなのにね。
で、その日本文化のなかの「ヤバイもの」として、「エッジききまくり。横尾忠則もビックリ。」と紹介したのが、国貞(3代目豊国)の「蒙雲国師(もううんこくし)」。もう一度、貼り付けます。
これ↓

国貞(3代目豊国)えがく「豊国揮毫奇術競・蒙雲国師」。文久3年(1863年)。
(「東京都立図書館・貴重資料画像DB」より)
私、この国貞の「蒙雲国師」の浮世絵が、本当に衝撃的で。何でこういうスゴイものを教科書に載せない? これを見せたら、どんな子供だって「日本ってスゲー」って思うはずなのに! と悔しく思っていたんです。
ところが、この国貞の「蒙雲国師」には、元ネタがあったみたいなんですね。それを、辻惟雄氏の新刊『奇想の江戸挿絵
これ↓

葛飾北斎えがく『椿説弓張月』内挿絵。文化4年(1807年)。
(『奇想の江戸挿絵』P160より)
本書によると、爆発シーンをこうした放射状に伸びたラインで表現したのは、日本で北斎が初めてとのこと。しかし、スゴイですよねー、このシャキーンとした大胆すぎるライン! この蒙雲国師の小憎らしいようなカワイイ表情! そして周囲に飛び散るユカイな仲間たち! なんか、吹き飛ばされてるっていうのに、ヤツら嬉しそうなんですよ(笑)。何考えてるんだか。いいなーこういうの。笑える。私最近、寝る前にこの絵を見てクスッと笑って心を落ち着かせてから寝てますよ(そこまでか?)。こういう絵を教科書に載せないでどうする? これを見せたら、どんな子供だって大喜び間違いナシなのに!
こういう、「エッジききまくり」のイラストが、本書にはもうたくさんたくさん、出てきます。
江戸時代後期、「読本(よみほん)」と呼ばれる、荒唐無稽な伝奇小説が大流行しました。当時の江戸のインテリ層が読んでいた中国の大衆小説(『水滸伝』や『三国志』など)を翻案したものが多く、入り組んだ複雑なストーリー展開がウリ。読本の最大のヒット作『南総里見八犬伝』を見れば一目瞭然、とにかく登場人物が多くてストーリーが複雑なんですね。さすがにちょっと文字だけだとタイヘン……ということで、数ページごとに挿絵を入れるのを特徴としていました。
挿絵。さしえ。なんてやさしい絵本的な響き。ところが、この読本の挿絵ときたら、そんなナマやさしいものじゃない。グロテスクで、アナーキーで、デンジャラスで、ゴージャスで、フクザツで。江戸の人々って、こういうイメージに囲まれていたんだ、こういう妄想やヴィジョンを脳内に所持していたんだ。そう考えると、江戸の人々の生活が羨ましいくらい豊かなような気がしてなりません。
わかりやすけりゃいいってもんじゃない、って、私、いつも思うんです。資本主義経済は、いつだって最大公約数を志向します。そうすると、どうしたって、わかりやすい方へ、わかりやすい方へと傾いていく。誰にでもわかりやすいもの。一目でわかりやすいもの。それが求められるようになる。でも。そうすると、人は自分で考えなくなる。自分で咀嚼しようとしなくなる。だって、いつだって誰かが、あらかじめ噛み砕いてくれてお匙さんに乗っけて「あ〜ん」って口の中に入れてくれるんだもの。そりゃ、誰でも食べられるかもしれないけどさ。誰かの唾液がついたものなんていらないよ、って思わなくもない(汚い話ですみません)。
今回、この本書『奇想の江戸挿絵』のなかに掲載された挿絵を見て思ったのは、北斎にしろ豊国にしろ、「とってもわかりにくい絵を描くんだなぁ」ということでした。圧倒されるほど、グロテスクで、アナーキーで、デンジャラスで、ゴージャスな絵って、一目では了解しにくいんです。パッと見では、全体を把握できない。「このラインは何のラインだろう?」って考えさせられるラインが、たくさんある。○書いてチョン、みたいなJR的イラスト(って、私大好きなんですけど♪)とは、ちょっと違うんですよね。
本書に掲載された挿絵を見て、つくづく、わかりにくいことに対する耐性は、今より江戸時代の人々のほうがあったんだろうなぁ、と思いました。今より昔の人のほうが「遅れてる」「バカ」だと思ったら、大間違い。そりゃあ、今の人のほうが江戸時代の人よりも、現代的な最新知識をもっています(現代に生きているんだから当然ですが)。でも、今の人のほうが江戸時代の人よりも、わかりにくいこと・わからないことに対する耐性が無いんじゃないでしょうか。わかりにくいこと・わからないことに対して「わからないから、オレ関係ないや」「わからないから、もうどーでもいい」っていう態度をとるというのは、つまり、バカに近づく第一歩だと思うんですけど。ま、バカでも全然いいと思いますが、バカを放置して本人が辛くなって「わからないから、もうどーでもいい」って言って無差別殺人とか起こすのは、ホントにやめてくれないかしら。
というわけで、エッジききまくりのカッコイイ日本文化を知りたければ、まずは『奇想の江戸挿絵』をお読みください。オススメです! ついでに、エッジききまくりのカッコイイ日本の女とは……っていうテーマ(ホントに笑?)で6月13日に月影屋さんとトークイベント(詳細はこちら)を行いますので、お時間のある方はぜひいらしてくださいね!
前のページへ|次のページへ
![井嶋ナギ ウェブサイト[放蕩娘の縞々ストッキング!] 井嶋ナギ ウェブサイト[放蕩娘の縞々ストッキング!]](http://www.nagii.org/img/common/logo.gif)
