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【本】 『名画座番外地』 川原テツ

2007.10.21 Sunday

金木犀の香りにクラクラしているうちに、北風に吹かれながら夜空を眺める季節となりました。真夜中に肌寒さを我慢しつつ、星を眺めるのが好きです。なんて、唐突に“ロマンチック女”ですみません。と言うのも、今住んでいるマンションのベランダからの眺めが最高で(というのも目の前の家が平屋、そのほかの家もみんな2階建てなので)、夜景&夜空を眺めるのが究極の癒しとなっている次第。と言っても、癒しなんて特に必要ないノンキな日々を送っている私ですので、ベランダでのくつろぎタイムは、趣味というか楽しみになっているくらいなのです。

夜道を眺めるのもまた面白くて、終電で帰宅するスーツの方々、コンビニに買い出しに行くジャージを着たカップル、あてどもなくフラフラ歩く得体の知れないじーさん、餌を探している野良猫など、普段何とも思わないような光景も、夜の街灯の明かりに照らされると何ともドラマチックな一光景に見えてきたりして。

そして、そんな光景を盛り上げてくれるi-podからのBGMは、梶芽衣子の『修羅の花』。そう、東宝映画『修羅雪姫』の主題曲であり、Q・T(タランティーノ)の映画『キル・ビル』でも使用されて話題になったあの曲。「恨みの川に身をゆだね 女はとうに捨てました」という何のことだか一瞬わからないような重力あふるる歌詞(作詞は小池一夫)にクラクラしつつ夜空を眺めると、かなりのトリップ効果が期待できます。『夜空ノムコウ』とかもいいのかもしれませんが(って私よく知らないのですが)、夜空を眺める際のBGMには『修羅の花』が今、一番のオススメ。みなさん、試してみてくださいね!



って、そんなことは置いておいて。というか、任侠系映画つながりということで。最近、とっても面白い本を購入しました。それが、『名画座番外地 〜「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記』。

ご存知の方も多いと思いますが、昔、新宿に、新宿昭和館っていう任侠映画専門の名画座があったんです。私も昔、ビデオになっていない貴重な(?)仁侠映画を見るために、数回足を運んだことがありました。でもそうした名画座の常で、来ているお客様が何と言うか“労働者風”な方々ばかり。当然、ブーツにミニスカート♪みたいな女子(当時20代)は浮きまくり。休憩時間にトイレに行こうとしたら、座席中のオッサンたちがザッとこっちを見た…ような気がして、かなり緊張したのを覚えています。ま、映画が始まっちゃえば何てことはないんですが。

そんな新宿昭和館も、平成14年(2002年)に閉館となってしまいました。本書『名画座番外地』は、その新宿昭和館で20年間働いた川原テツ氏による、怒涛の日々の記録。笑いあり涙あり…というよりも、ケンカありバカあり浮浪者ありヤーさんあり、と言ったほうがわかりやすいかも。本書では、そんなバカで切なくて熱い人々が、もういいよ〜というくらい登場してきます。と書いたところで、こういう形容詞って何かと同じだったような…と思ったら、そう、バカで切なくて熱い人々とは、それはそのままヤクザ映画の登場人物のことだった、という事に気がつきました。アハハ。ね、それだけでこの本のステキ度がわかるというものですよね?(違う?)

この本に書かれている新宿昭和館でのエピソードの数々は、とにかく普通じゃあり得ないようなことばかり。マトモな人は全然、出てきません。もったいないからあまり具体的なエピソードについて書きたくはないのですが、ちょっとだけ紹介してみます。以下。



●昭和館のゴミ置き場にはヤクザが商品であるトルエンをしばしば隠していて、ブツが無くなると昭和館のゴミ置き場に取りに来ていた。
●ある冬の日、座席の上で新聞紙をじゃんじゃん燃やしている客がいた。理由は、「寒かったから」。
●ある常連客は、金が無くなると新宿御苑からギンナンを山ほど拾って袋につめて、「これで入れてくれ」と言うのを常としていた。しかも受付のおばちゃんはそれで入れてやって、後で炒ってみんなで食べていた。
●二階席にいたある客は、健さんの活躍に大興奮して立ち上がって「ブラボー!」と拍手をしてそのまま一階に落下し、放ったひと言が「危ねぇ、死ぬとこだった」。
●昭和館ではビスタサイズでの上映(スタンダードサイズの作品の上下をマスクで隠し、横長として上映する)しかできなかったので、巨匠クロサワのあの不朽の名作『七人の侍』(スタンダードサイズ)では、演説している志村喬がずっと首チョンパだった。
●毎年節分になると、支配人が上映中にもかかわらず場内に突然現れ、「鬼は〜外〜」と観客席に向かってマメをまいていた。



などなど、マルキューで売ってるラインストーンのアクセサリーのようにキラキラとしたトラッシュなエピソードが満載。たまりません…。



ところで。現在、都内で仁侠映画専門の名画座と言えば、浅草名画座。ビデオやDVDになっていない貴重な仁侠映画や日本映画を上映しているので(しかも3本立てだし)、私も何度も足を運んでおりますが、ここのHPがとても面白くて。番組紹介文が、非常にハイテンションで面白くて、映画を見に行かない時でもたまに覗いてみては愛読していました。

その浅草名画座HPで番組紹介文を担当しているのが、本書の著者・川原テツ氏。「浅名アニキ」という名前で、番組紹介文を書いている方なのです(こちら)。以前から、ホントに個性的でエネルギッシュで面白い文章だなぁ、と思っていたところ、この『名画座番外地』で「幻冬舎アウトロー大賞」の特別賞を受賞したとのこと。やっぱりねぇと、ちょっぴり嬉しく思ったのでした。


ついでに書いておきますと、浅草名画座も、なかなかステキな映画館です。昔、天知茂バージョンの『東海道四谷怪談』を見に行った時にも書きましたけど(こちら)、場内に酒(しかもワンカップ系の)香りが馥郁(ふくいく)と漂っていましたから(笑)。でも今は、以前よりずいぶん座席も綺麗になって、女性ウェルカム仕様になっているのでオススメです! でも、そうは言ってもそこはやっぱりヤクザ映画専門の名画座ですから、そこのところ夜露死苦ご了承くださいませ。

先日も、藤純子(大好きー!)が主演している『女渡世人』を見に浅草名画座に行きましたけど、なかなかどうして、オツな雰囲気で御座いました。「禁煙」という注意書きが煌々と光っているにもかかわらず、みなさん平気でタバコ吸ってますからねー。スクリーンの明かりに照らされて白く渦を巻くタバコの煙…。って、現代日本においてはかなり斬新な光景かと。それから、藤純子と鶴田浩二のいいシーンになると決まって「カーッツペッッ!」と場内にタ○を吐き捨てるオッサンがいましたからねー。あまりにいつもいいシーンでやるもんだから、彼にとってあれは歌舞伎の掛け声のようなモノなのなのかも?とまで思わされました。「あっしはねぇ、いつかお駒さんに女として幸せになってもらいてぇんですよ…」カーッペッ! 「どうせ骨の髄まで垢のついたあっしだ…。お駒さん、お供さしてもらいます」カーッペッ! みたいな(笑)。ついでに言えば、「靴を脱いだ足をそのまま前の座席の背もたれに上げる」、といった基本的礼儀作法ももちろん完備。

でも、こういう映画館も、あってもいいと思います。私は。だって、全部が全部シネマコンプレックスみたいになっちゃって、綺麗な建物にピカピカのロビーにフカフカの座席、まるでオペラを見るようにお行儀良く…なんて、もちろん私だってこういうの好きですけど、それだけしかないなんて、そんな世の中つまらないもの。世の中にはいろんな人がいて、それぞれに自分が居心地よく過ごせる場所がある。それでいいのではないかしら。私個人のことを言えば、そのどちらをも選べぶことができる、そんな自由を所有している状態が一番気もちがいいし、居心地がいい。だから、こういう映画館は今後も無くならないで欲しいと心から思います。そのためにもちゃんと足を運ばなきゃね! というわけで、みなさん、『名画座番外地』をハンドバッグにしのばせて、『修羅の花』をi-podで聞きながら、浅草名画座に出かけしましょ! (そんな女はヤだとか言わないように)


(後日談。先日、初めて祝日に浅草名画座に行ったら、ものすごい大量のお客様に子ども連れの方までいらっしゃって、とってもイイ雰囲気! タバコ吸ってる方も一人しかいなかった…! 休日にファミリーで浅草名画座、っていうのもイイですね。) 




◆「小池一夫のはじめてのブログ
 『修羅雪姫』の原作者であり、『修羅の花』の作詞家でもある、
 小池一夫氏のブログ……というものがあったとは。
 「はじめての」っていうのが可愛くて泣かせます。


◆浅草名画座オリジナルシャツ、発売中!
 こちらへ。



サイズ:S/M/L  3500円 (上画像は裏面)

欲しいような欲しくないような…
いや、あえて、欲しい! あえて、着たい!(家で。)


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