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【日舞】 花柳流名取試験を受験しましたの記。

2009.07.22 Wednesday

先日は、東京は虹が出て綺麗でしたね。そして、空がメラメラ燃えているような夕焼けも。見上げた空にいつもと違う美しさを見たとき、人って何かを祈るような心もちになるものです(あ、そういえば今日は皆既日食ですね〜! って、その時間帯、思いっきり寝てましたが)。で、私は右の空に大きな虹を、左の空に燃えるような夕焼けを見ながら、ある願い事をしました。ひとつは、「明日の名取試験に受かりますように」というお願い、もうひとつは……内緒です(たいしたことじゃないくせに隠すウザいヤツ)。







というわけで、先日の7月20日、花柳流の名取試験を受けてきました。「名取(なとり)って何?」と言われることもあるので、簡単に説明いたしますと。日本のさまざまな伝統芸能の、典型的なかたちとして、「家元(いえもと)制度」というものがあります。ある「流派(りゅうは)」を設立した「宗家家元(そうけいえもと)」を頂点に、多くの「門弟」が従い、その下にまたさらに「門弟」がいる……というピラミッド形の組織は、会社組織のようなものです。で、「名取」とは、ある一定以上の芸を認められた門弟に対し、その流派の「苗字芸名」を許可する制度のこと。こういった「流派」「家元」「名取」というシステムは、たいていの日本の伝統芸能には共通のものではないでしょうか。

私は、日本舞踊の大きな流派のひとつ、花柳流(はなやぎりゅう)を習っています(日本舞踊には200以上の流派があり、なかでも、花柳流・藤間流・若柳流・西川流・坂東流が、日本舞踊の五大流派と言われています)。ですので、私は花柳流の名取試験についてしか細かいことはわからないので、以下は花柳流についてのお話です。

花柳流には、「普通部」と「専門部」という2つの区別があります。「普通部」に合格すれば「苗字芸名」を名のること(=「名取(なとり)」)は許されますが、先生として弟子をとることは許されていません。よく「名取になったらお弟子さん取ることもできるんでしょう?」と聞かれるのですが、花柳流に関して言えば、弟子をとる資格(=「師範(しはん)」)を得るには、さらに「専門部」に合格しなければいけないのです。これに関しては、ほかのさまざまな流派や伝統芸能によって違っていて、わりと簡単に師範の資格を取得できる流派もありますし、そもそも師範制度は特になくて名取になればすぐ弟子をとることができる伝統芸能もありますし、特に法的に決められているわけではないので本当に“それぞれ”なんですよね。そんななかでも、花柳流はかなり厳しい流派。花柳流の「師範」の試験に合格するにはかなり高度な技術が要求され、合格者は毎年ほんのわずかなんだそうです。でもそれは、花柳流の芸のレベルを維持するために欠かせないシステムなのでしょうね。



もちろん、ひよっ子の私が受験したのは「普通部」。というわけで、花柳流の宗家家元先生のお稽古場、築地にある大きな風情ある日本家屋に、師匠の花柳美嘉千代先生に連れて行っていただきました。




初めての宗家家元先生の築地のお稽古場です!! 
さすがにこの門構えを目の前にして、ドキドキ。




でも、入るのはこっちから、です(当たり前)。



11時にお稽古場に到着し、その後松竹衣裳さんに着物を着付けていただき、控え室(大きな広間)でおにぎりを食べたりお菓子を食べたりして待機。試験は13時からスタート。今回の受験者は30人ほどだったので、15人ずつに分けて受験することになりました。

花柳流で名取試験を受けるためには、2曲の課題曲を、家元先生(4代目花柳壽輔先生)と幹部の先生の前で、踊るのです。課題曲は、常磐津「廓八景(くるわはっけい)」と、長唄「汐汲(しおくみ)」。「廓八景」は男の踊りで、「汐汲」は女の踊り。

以前も書きましたが(→「踊りの会でのキモノ。性別逆転のエロス。」参照)、日本舞踊は、何かの役になって踊るというのが普通なので、男の役になって踊るときは外股でキリリとカッコよく、女の役になって踊るときは内股で女らしく、というように性別を踊りわけます。ということで、試験ではその両方をちゃんとお稽古しているかどうか、チェックされるということなのです。



で、いざ列に並んで待っている時はさすがに緊張しましたが、私の師匠である美嘉千代先生が「大丈夫。精一杯踊らせていただきましょうね」と仰ってくださったことで、気持ちもスーッとラクに。確かに、「廓八景」も「汐汲」もそれぞれ1年くらいかけて稽古してきたんだもの(長すぎるかも笑)、やれるだけをやるしかないわよね〜と、ある意味で開き直りモードにシフトし、図々しいヴァージョンの人格が登場(笑)。って、度胸があるというより、土壇場になると過度のストレスを避けるために「過剰な期待をしないスイッチ」が入る癖がいつの間にかついちゃっているみたいで。これって、良いのか悪いのか。あまり良くない気もします。といってもやっぱり緊張したらしく、いつもは全然間違えたことのない自信満々の箇所をうっかり間違えました…。



にも関わらず、無事、「花柳 なぎ嘉乃(なぎかの)」という名前をいただくことができました! 家元先生(4代目花柳壽輔先生)の前に並び、固めの杯(さかずき)をいただき、免状や表札などをいただきました。



いただいた花柳流名取グッズ。



(左から時計回りに)「錦や」の花柳流揃い浴衣反物、花柳なぎ嘉乃の表札、「東扇堂」の花柳流揃い扇、名取免状、花柳流定紋入り素焼きの杯、「大阪家」の花柳流定紋入り紅白饅頭。



ちなみに、名取というのは、決して、「アタシ上手に踊れるのよ〜」なんていう意味ではありませんので、念のため。逆に、踊りを何十年と習っていて上手に踊られる方でも、名取試験を受けない方もたくさんいらっしゃいますし。名取というのは、とりあえず基礎のABCを習得してやっとスタート地点に立てました、というお墨付きのようなもの。そして、ここが何よりも大事なことなのですが、これからいよいよ、「いい踊り」「理想の踊り」を追求することが許される、ということなのです! 何しろ、一生追求できるものがあるなんて、本当にありがたいことです。「目標」や「理想」があれば、人は何とか生きていけますから。逆を言えば、「目標」や「理想」がないと、人は生きていくのが馬鹿らしくなるものなのですよね。私も、ここらへんは、いつもギリギリの瀬戸際で、結構ヒッシです。



とにかく、一大イベントが無事終了してホッとしました。それもすべて、師匠である花柳美嘉千代先生のご指導のおかげなのです。特に勤勉家でもない私が(イバることではないですけど)、月6回のお稽古に通い続けることができたということに、心から感謝しています。こんなに飽きっぽくて、自分にとって意味のない行為に耐えられなくて、無駄な時間にも耐えられないワガママな私が、8年間以上もお稽古を続けられている&しかも一生続ける気満々! でいるなんて、周囲からも驚かれているくらいですから。

つまり、それだけ日本舞踊のお稽古に魅力があって、好奇心や向上心を刺激されるものだということだと思うのです。だって、世間的に価値があるとされているかどうかということにそれほど興味のない私は、何よりも「自分にとって価値があるかどうか、自分にとって楽しい素敵なものかどうか」にすべての基準を置いているので。だからそうじゃなかったら踊りだって続いてないはずなのです、生意気なことを言うようですが。





築地にある、花柳流宗家家元先生のお稽古場にて。記念撮影。





「花柳舞踊道場」と、書かれている表札の前にて。

そう、「道場」、なのですよね〜〜。踊りって、決して優雅なだけじゃない、いわば“体育会系”の世界なのです。そんな場所に、私のような“文科系”“帰宅部”専門みたいな人間が足を踏み入れるとは。人生、何がおこるかわからないものだなぁ、としみじみ思いました。



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