BLOG

<< 【告知】 NEWS欄を更新しました | main | 【着物】 「姐さん系キモノ」で歌舞伎座。もしくは、「男なんてしょせんファッション」のススメ。 >>
 

【映画】 『二匹の牝犬』  〜不幸を楽しむためのレッスン。真っ暗だって、いいじゃない!

2009.05.13 Wednesday



GWが過ぎると、一気に初夏の香り! 外を歩いていても、植物がメキメキと繁っていくような、新しい土がモリモリ作られていくような、生きものたちが一気に息を吹き返すかのような、何とも言えないよい匂いがしますよね。

だけど私、子どもの頃、この初夏のみずみずしい匂いを、「ミミズの匂い」だと思っておりました。この匂いが鼻腔をかすめると、「うわ! ヤバイ! 近くにミミズがいるッ!!!」と、私のなかで危険信号がピコピコ点滅。道路脇のドブに近寄らないよう、うっかり目をやらないよう、わき目もふらずに一目散に帰宅(笑)。

私が通っていた小学校は、千葉の田舎にありまして。この時期になると、学校帰りの道でよくミミズに遭遇したんです。でも私、一応は東京生まれだし(笑)、住んでいたのも新興住宅地だったんで、そういうのが一切ダメで。だけど、地元の田舎育ちチーム(いやバカにしてるわけじゃないんですよ、念のため)の子たちは、そういうの平気だったりするんですよ〜! で、ドブの中からそういうのをつまんで、私に見せようとするのが、もう恐怖で恐怖で……(しかし、虫類を手づかみできる女子なんて、今から思えばすっごいクール!)。

そんなわけで、今でもこの初夏の香りを嗅ぐと、「なんていい匂いだろう!」と思うのと同時に、「ミミズの季節だな……」と思ってしまう、風情があるんだかないんだかよくわからない感慨にふけらざるを得ない私でした。




そんなことはいいとして!

先日、映画を見てきました! 渋谷シネマヴェーラで上映中の「緑魔子 特集」! 全部見たいけど、とりあえず大傑作『二匹の牝犬』だけは見なければ! と、まっ昼間から円山町へ。


二匹の牝犬』(1964年 東映)
監督:渡辺祐介
脚本:下飯坂菊馬、渡辺祐介
出演:小川眞由美、緑魔子、杉浦直樹、沢村貞子、宮口精二、若水ヤエ子、岸田森



(左:緑魔子 右:小川真由美)
(上の画像は、愛読雑誌『映画秘宝』6月号より)




二匹の牝犬』については、以前、「『観賞用男性』 〜日本のお洒落なロマンティックコメディ! または、徹子の部屋。」というエントリーでも書きましたが(←杉浦直樹が演じた男の「映画でもめったにお目にかかれないほどのサイテー男っぷり前代未聞のダメ男っぷり」について、くどいほど褒めたたえました!)。とにかく、ものスゴイ傑作なんです!!!!!! どうして未ソフト化?? 不思議です。ま、好き嫌いは分かれるとは思いますけど……(楽しくてしょうがないっていう作品でないことだけは確かだが)。




あらすじを、少しだけ説明します(ネタバレ、ちょっとだけアリ)。

小川真由美ふんする朝子は、トルコ嬢。「300万円貯めるまでは、死んでも恋愛しない」と決心し、トルコで稼いだ金を株につぎ込み、大金をためる日々。

証券会社の若いイケメン証券マン杉浦直樹)は、謎めいて美しい朝子に好奇心を刺激され、「あなたの住所と職業が知りたいんだ! 教えてくれ!」と迫りまくります。

実際、朝子のほうもこのオトコマエ証券マンに惚れており、好きで好きでしょうがないのに、「300万円貯めて美容院の権利を買うまでは」と、証券マンを拒み続けます。……真面目すぎ。そう、真面目すぎる人は、損をするんですよ!! それが、この世のルール。じゃなかった、映画のルールってことで(笑)。



そんなある日、朝子の妹・夏子(緑魔子)が、千葉の田舎から上京してきて、朝子の部屋に転がり込みます。それまでエレガントだった朝子、イキナリ男言葉で妹をどなりつける!
「かえんな! かえんな!!」
「オマエみたいな田吾作(たごさく)がぁ!! トンマ!!」
「バカヤローッ!」
「まるっきりキチガイ沙汰じゃねェかよッ!!!!」
……ち、千葉の田舎って、男言葉なのかな? と、千葉の田舎で育った私が問う(笑)。



そこからが朝子の悲劇の始まり。ちょっぴりネタバレになりますが、あっけらかんと売春で荒稼ぎする現代ッ子な妹・夏子は、ひょんなことから先のイケメン証券マンと知り合いに。でも夏子は、まさかこのイケメン証券マンが自分の姉の知人だなんて思いもよらないし、イケメン証券マンも、まさか夏子が朝子の妹だとは知るよしもありません。

そんなある日、朝子がトルコ嬢たちの社員旅行(というものがあったらしい…)に出かけてるすきに、夏子はイケメン証券マンを部屋に連れ込みます。ところがちょうどそのとき、朝子が金をつぎ込んだ会社の株が暴落するというニュースが! 驚愕した朝子、旅行をきりあげて帰宅すると、なぜか妹が裸! なぜか脱ぎ散らかった男もののジャケット! シャツ! ネクタイ! 見覚えのあるネクタイ! あのネクタイ! クローゼット、開ける! そこにいたのは……!? 緊迫の対面シーン。こんなに緊迫したシーンは、『用心棒』での仲代達矢と三船敏郎の「一対一の対決シーン」か、『鬼龍院花子の生涯』での仲代達矢による夏目雅子の恋人役・山本圭への「指ツメ強要シーン」ぐらいのものですよ! たぶん。



しかし、ここが最大の山場だとしたら、よくあるメロドラマかもしれません。が、『二匹の牝犬』の山場は、こんなもんじゃありません。さらなる山場、さらなる修羅場、不幸の淵、苦悩の奈落、とにかく真っ暗です! これから見ることになる人のために、詳細は控えますが(あまりにもったいないので)。






……というわけで、この映画、「真面目な女の転落」と、「自堕落な男の転落」と、「あっけらかんとした女の転落」、を描いていて、とにかく秀逸。だって、真面目な女も、あっけらかんとした女も、自堕落な男も、よく考えたらフツーにそこらへんにいるじゃないですか? 私だってそうだし、あの子もそうだし、あの人だってそう。真面目も、自堕落も、あっけらかんも、フツーのこと。そして転落も、ある意味で、フツーのこと。すさまじく真っ暗な映画なんですけど、あまりに真っ暗すぎて、フシギと、心が落ち着くんです。「そんなの、フツーのことなのよ」。そう思えるって、実は、心が晴れ晴れとするものじゃないかと思うのですが。まぁ、暗闇大好き(→こちら)な私だから、かもしれませんけど……。

でも、そんな暗闇好きな私だって、もちろんもキラキラしたもの、ドキドキすること、ラッキーなこと、ハッピーなこと、大好きです! だけど、それだけだと、何故か心が落ち着かない。それだけだと、どうしても、片手落ちなのです。だって、この世は、どう頑張ったって、キラキラドキドキラッキーハッピーばかりじゃないんですもの。

別にやさぐれてるわけじゃありません(笑)。だけど、「自分の尺度をどのくらいまで広げることができるか」、というのは意外と大切なことで。キラキラドキドキラッキーハッピーしか尺度に入れていないと、それが自分の横を素通りしてしまったときに、「どうして私だけ?」となる。そして、他人を羨んだり、毒を撒き散らしたり、運命を呪ったりする。それも悪くはないかもしれませんが、私はそういうことは好きじゃない。真っ暗も、受け入れられれば、それも楽し。そのほうが、生きるかいがある、というものですよね。



小川真由美ふんする朝子が、トルコ仕事から一人で部屋に帰ってきて、くわえタバコしつつ、コートを脱ぎ、ワンピースを脱ぎ、スリップだけになり、アクセサリーもはずし、お金を数え、ガーターベルトをはずし、ストッキングに伝線がないかチェックする。その一連の動作の、下品で崇高なやさぐれた美しさを見よ!

こんな美しさを醸し出せるなら、ここまで不幸で、ここまで真っ暗で、転落しまくりの運命が待ち受けていたとしても、それはそれでいいのかもしれない。こんなふうに、不幸さえも、「これで、いいのかも」と思わせる。それこそが傑作映画の、醍醐味。

そう。今こそ唱えよう。

真っ暗だって、いいじゃない! 







ちなみに、この映画は、60年代の小悪魔イットガール・緑魔子のデビュー作。緑魔子のトークショウ、行きたかった……! 人気イラストレーター・野川いづみさんのブログ「ひみつの花柄」に、その様子が詳しく面白く書かれていたので、詳細を知りたい方はそちらをご覧ください♪

上記の画像は、緑魔子の唄を集めたコンピレーションCD『アーリー・イヤーズ 〜シングル・コンピレーション+』。可愛いですねぇ!




■「緑魔子伝説」@渋谷シネマ・ヴェーラ

 タイムスケジュールは、こちら

 この次の『二匹の牝犬』上映は、
 5/15(金)の15:00〜の回と、18:10〜の回です。




 
前のページへ|次のページへ